あんなに疑っていたのが嘘みたいに、話が盛り上がって。


お互いのことをどんどん知っていく。


自宅も勤務先も近いし、読書が趣味っていうのも同じで。



「じゃあ、いま実家だけど一人暮らしなんだ、何かと大変だね」


「うーん、一人には広すぎる家だけど、気楽だよ。


近くに姉一家も住んでるし」


「そっか、俺はいまだに実家暮らしだから、そろそろ出ようと思ったりするけど、やっぱ食事とか洗濯とか掃除とか考えると、踏み切れないよな」


「一人で全部やるのは大変だけど、慣れたら意外と簡単だよ」


「俺にはまだ独身の兄貴がいるけど、会社の寮に入ってて、部屋は寝るだけだって言ってた」


「家事は、こだわったらきりがないけど、サボろうと思えばどうにでもなるからね」



話題がつきなくて、気づけばもう23時近かった。


店員さんにラストオーダーを聞かれるまで、ぜんぜん気づかなかった。



「そろそろ帰ろっか、送るよ」


代金を割り勘で払おうとしたら、


「もう払ったからいいよ」


さらりと大人っぽいことを言うし。


「ダメだよそんなの、割り勘にしよう」


「いいから、俺が誘ったんだし」


「でも、おごってもらう理由ないし」


「いい気分なんだからおごらせてよ。


それともまた揉めて、入りにくい店増やす?」


うっ、たしかに、揉めてる姿はみっともない。


おとなしく従うことにした。