辛うじて俺は助かった。
だが虚しかった。
千穂を助けてやれなかった後悔を、この手のひらに感じていた。


(もう少しで……もう少しでこの手が届いたはずなのに)

俺はそのまま……
其処から動けずにいた。




 ふと先生と松尾有美のことが心配になって振り向いた。
その時俺は見た。
俺を守るために、みずほの白い霊が背中に抱き付いているのを。


「みずほ……」
俺は唇を重ねようと抱き締めた。
でも……
みずほは俺の腕の中で消えていた。


「みずほーー!」
俺はがっくりと膝を付いた。




 俺は警察に、録音したテープを提出した。

でもコンパクトは写真のみの提出とした。


『どうして早く言ってくれなかった』
そう刑事は言った。

俺はただ頭を下げた。


俺が二人を追い詰めたのだろうか?
俺が居たためにみずほが犠牲になったように、二人も死も又……

でも先生は言ってくれた。


『磐城瑞穂が居たがら、このクラスは救われたのだ』と――。




 町田百合子と千穂は自殺として処理された。
岩城みずほを自殺に見せかけて殺し、その自責の念に耐えきれず……
そう報道された。


俺が警察に連絡さえしていれば、事件は解決したのだろうか?
百合子と千穂は死なずに済んだのだろうか?




 千穂を死に追いやってしまった俺を、寛大な両親は許してくれた。

でも腸は煮えくり返っているはずだ。

千穂は一人娘だった。

目に入れても痛くないほど溺愛した愛娘だったのだ。


俺を愛したために……
俺が愛さなかったために……
傷付き、そして命を散らした千穂。


俺が差し出した手を拒んだ時の表情が、脳裏を離れない。


何時も明るかった千穂を変えたのは、紛れもなく俺だったのだから。


手持ちのアルバムを開けてみる。

そこに写る千穂の瞳は、何時も真っ直ぐに俺に注がれていた。




 俺の傍には何時も千穂がいた……
何時も……

その気持ちに気付くことなく、みずほとの愛に溺れた俺。


でも果たして俺に何が出来たのだろうか?
俺はこれからの人生を、懺悔のために生きて行かなくてはならない。


みずほを愛し……
千穂を恨み……
それでも千穂を愛さなかったことを悔やみ抜く。
所詮俺は弱い男だった。

みずほの恋人だと名乗る資格もない程の……
千穂に愛される資格もない程の……


俺は千穂にとっても、みずほにとっても最低な男だったようだ。