俺は恐怖に震える有美を支えながらやっとカフェを後にした。
でも本当は……俺もどうにか歩ける程度だった。


初めて着させてもらったワンピースは余計歩き辛くした。
裾が思ってた以上に広がらないのだ。
レギンスを履いていなかったらきっと最悪な状態になっていただろう。


でもこのスタイルにレギンスは合わないと思っていた。


そんなことはアパートを出る時から解っていたはずなのに、有美のことに気を取られていたから見過ごしてしまっていたのだ。


ローヒールの靴だけは自分の足に合わせ選んだ。
だから歩き馴れている。
でも小幅で歩くことを余儀なくされた俺には、それすら妬ましく思えていた。


叔父さんの奥さんの形見のワンピースを破く訳にはいかない。
俺は精一杯内股で、ゆっくりと歩こうとはしていた。


でもそんなことより……
大切な、大切な幼なじみの千穂が……


俺とみずほの共通の友人だった千穂が、事件のキーマンだったなんて……

あんなに仲良しだったみずほの命を奪ったなんて……

俺はまだ悪夢の中にいた。




 それは有美も同じはずだった。
次に狙われるのが自分だと知って恐くない人はいないだろう。
俺はただ、有美の傍に居ることしか出来なかった。




 ふらつきながら歩く有美と俺は明らかに不審者に見えるだろう。


おまけに、女にあるまじきペッタンコの胸。
男としては小柄だけど女としては大きいはずだ。
だから百合子と千穂に気付かれないかと心配していた。
でも二人には解らなかったようだ。




 足がもつれる。
その度何かを掴む。
有美も俺もやっと歩いていた。


(当たり前だ。みずほの様に自分も殺されるかも知れないんだ。俺もきっと……)

俺は何時しか有美の姿に自分を重ねていた。


(キューピッド様で出たのはいわきみずほなのだ。翔太のためにと、その内きっと俺も百合子に狙われる)

そう感じた。


(そうだった!? 元々《いわきみずほ》と出ていたのだった)

俺はその時、百合子なら俺の命も狙ってくると考え始めていた。


有美を支える手に力が入る。


「どうしたの?」

やっと有美が口を開いた。


「俺が守る。みずほさえも守れなかった俺だけど、絶対に守ってやる」

俺の言葉を聞いて有美は微かに笑った。
でもその顔は引き吊ったままだった。