「さあ、磐城君の叔父さんの探偵事務所に行って女装よ」

有美の言葉にもっと驚いた。


「バレていたのか?」
俺がしょんぼり言う。


「うん。余りに可愛かったから、後で強請ってやろうとみずほと笑ってた」


(おいおい……)
俺は落ち込んだ。

有美はまるで俺の弱点を探し出そうとするかのようにビッタリ密着した。


(ヤベー。心臓バクバクだよー!)

こんなことは始めてだった。

今俺は、俺を女装探偵だと知ってる女性に腕を組まれている。


俺はみずほに誤りながら、非常事態ツーショットを有美に許していた。


いや……
許さざるを得なかったのだった。




 「本当に磐城君なのか確かめたくて、みずほと後を付けたの。多分この道よね」

有美はそう言いながら、イワキ探偵事務所に続く道を歩き出した。


(やっぱり知っていたんだな……)

俺はしょぼくれながら有美に引き摺られてイワキ探偵事務所の前に立っていた。


俺は仕方なく、イワキ探偵事務所のドアを叩いた。




 「何だ瑞穂か。そう言えばお前、さっき帰ったんじゃなかったのか?」

叔父さんは俺と有美の訪問に驚いたようだった。
俺は自慢じゃないがみずほ以外の女性を此処に連れて来たことがなかったのだ。


「それにしても珍しい」

叔父さんは有美を見ながら言った。


当たり前だ。俺だって面食らったんだから……


「ねえ瑞穂の叔父さん。瑞穂の女装をお願い」

でも有美はそんなことはお構いなしで、ズゲズケとしゃしゃり出てお願いのポーズをした。




 「大切に着ろよ」
そう言いながら叔父さんは、奥さんの形見のワンピースを出してくれた。


「はい、それとスパッツ」


「瑞穂の叔父様古い。それ今レギンスって言うのよ」


「し、知っていたよ」

有美の勢いに叔父さんもしどろもどろだった。




 俺は奥さんの花嫁道具の一つである三面鏡の前で着替えを始めた。

結婚する前ドレッサーかこれにするか迷ったそうだ。

その頃の流行りはドレッサーだったらしい。
でも場所をとるからと、これに決めたそうだ。

そんな話しを思い出しながら、俺は鏡を見ていた。


だんだん女に変わっていく自分をしょんぼり見ていた。
まさかみずほが何もかもお見通しだったとは。

俺にはどうすることも出来ずに、ただ有美の言いなりになるしかなかった。