『先生。実は私、転校を考えてます』

私がはそう呟いた時、キョトンとした顔をしていた担任。


それが何を意味しているのか、私は知っていた。
継母との浮気現場に私が居たことを担任は知らないのだ。
まして……
私が探偵事務所に証拠写真を押さえさせた事実なども解るはずもなかったのだ。
そして、私がその写真を父に見せたから具合が悪くなったことなど知るよしもなかったのだ。


自分達の行動が殺人の一貫になっているなんて考えも及ばなかったのだろう。
でもそう仕向けたのは私だった。


私は担任と継母の悲恋に同情して、父が出張する朝に手を打ったのだ。




 偶然鉢合わせしたようなシチュエーションを演出した。


あのスーツも私の見立てだ。
継母の誕生日にプレゼントしておいたのだ。
だから悪いの私なのだ。




 あの日継母には、友達と映画を見に行くと思わせていた。


私はその時、わざとチケットを忘れたのだ。
それに気付いた継母がそれを届けてくれることを期待して……


そして急用が出来たからと嘘をついてその片方のチケットが担任に渡るように工夫したのだった。


担任は其処に継母が来ることさえ知らなかった。
だからかなり驚いたことだろう。


私はその後で二人が結ばれることを期待して……
イワキ探偵事務所に、浮気の証拠写真押さえるように依頼した訳だ。


予想通り継母はグレーのスーツを着ていた。
何処にでも溶け込む色を選ぶなんて、まるでカメレオン。
探偵にそう思わせることに成功したのだ。


担任は紺の上下だった。
何時ものジャージとは違って、格好よく見える。


担任はきっと浮気がバレていることも、証拠写真で父が苦しそうになったことも知らないのだろう。


そしてこの死を仕掛けたのが私であることも……




 『先生、私やっぱり転校します』
だから私は屋上でもあえて言ってみたんだ。


私の意図も、その本当の意味も担任は知らないで……




 私は二人の過去を知っていた。
だから本気で、父を殺し担任と継母との結婚をお膳立てしようとしたのだった。


『パパは私の面倒をみるのがイヤだったの。でもパパ酷いの。財産分与のこと親戚に言われて、ママを籍に入れなかったの。戸籍取り寄せてみて解ったことなんだけど……』

私が磐城君に話したことに嘘はない。
でもそれが判ったのは、父の死後ではなかった。


だから浮気にはあたらない。
私はそう判断した。