家に戻ると継母が待っていた。
私は案内されて一階の和室に入った。


煎餅蒲団の上には薄べったくて、冷たいシートが敷いてあった。


「ドライアイスみたいなの」
継母は言った。


流石にベッドパットじゃみっともないだろうし、マットの上にも寝かせられないだろう。
何処やらで調達したであろうと、その寝具を見て思った。




 「どうして急に亡くなったの?」
私は肝心要の質問をした。
もし、心臓麻痺だったら、間違いなく私は殺人者なのだから……


「突然死。なんだって」


「えっ!? 突然死?」

てっきり心臓麻痺だと思っていた。
私のせいで死んだのだと思っていた。
でも違っていたみたい。
その突然死に心臓麻痺も含まれているかも知れないけど、私は胸を撫で下ろした。


(良かった。誰も気付いていない。助かった)
私はその場で黙りを決めることにした。




 「過労死じゃないのかだって、部下の方が言っていたわ」

過労死と聞いて思い出した。
何時も会社のために走り回っていた姿を。


「バカみたい」

私は思わず言っていた。


今から思うと、全て父が家族を顧みなかったせいなのだ。
私が父を心臓麻痺に追い込もうと考えたのだって、全て其処からきているのだと思った。
自分の犯した罪を正当化させようとしているだけだけど……


「そう言えばお父さん、会社のために身を粉にして働いていたからな」

私は保身のために話を合わせることにした。
ズルいって、自分自身が一番解っているけど……




 枕元に供えられた御膳の上には山盛りのご飯に箸が刺さっていた。


(そう言えば子供の頃、母に叱られたことがあったな)

父を死に追いやった苦し紛れか、何故かそんなことを思い出していた。


「有美ちゃんこのガーゼでお父さんの口に水を含ませてあげて。末期の水って言って、とても大切な行事なの」
継母はそう言いながら、茶碗に入れた水を渡した。


「会社の人が皆で手配りしてくれたから、葬儀は早く済むみたい。埋火葬許可証はさっき届いたの。通夜は明日。告別式は明後日だって」


「えっ!? そんなに早いの。そうだお母さん、私も喪服を着るの? 黒い服なんて持っていないわ」


「着なくてもいいんじゃないのかな? 有美ちゃんは高校生なんだから制服が一番だと思うな」


「あ、それなら買いに行かなくてもでいいのね」

継母はそっと頷いてくれた。