やがて、告別式の時間となる。
俺は一般席みずほの旅立ちを見守っていた。

いくら結婚を許された恋人でも、家族席なんかに座れない。


でもみずほは、永遠に俺の花嫁だ。


(俺は一生、お前だけを愛する)

心の中で誓った。




 読経の音と木魚の音。
斎場内にあるホールに広がる。
そこかしこですすり泣きの音が聞こえる。
俺は又ハッとした。


(何でだ? 何で泣けないんだ?)
みずほの遺影を見ながらポケットを探り、そっとハンカチを取り出した。


(こうなりゃ泣き真似だけでも……)
浅はかな俺は泣いている振りをして、その場をしのごうとしたのだった。


自分が後ろめたいことをしているからなのか?
どうしても泣いている人が気になる。
俺は目だけ動かして、顔をくしゃくしゃにして泣いてる懐かしい奴を羨ましく見ていた。


ソイツは木暮悠哉(こぐれゆうや)と言って、俺の中学時代の親友だった。
サッカー部のエースになると言う、同じ夢を見ていた仲間だった。
彼も俺同様に身長が低かったが、パワーだけは超一流だったんだ。


(そうか、アイツの兄貴確か変な死に方したんだったな。だからあんな風に泣けるのか?)

俺はその時、妙に納得していた。
アイツの傷みも知らないで……




 最後の別れに柩の中に花を入れる。
俺は別れを惜しむ振りをして、隠し持った赤い糸をみずほの指先に結んだ。
それはさっきまで俺の小指に結ばれていた。
二人は運命の赤い糸で繋がれている。
そう語りかけながら……


俺の分はサッカースパイクの数だけ置いてきた。
みずほの愛に報いるために、何時もそれを履くことを御霊に誓った。


(みずほ、向こうで俺がいくまでまっていてくれるか?)
俺はポケットに入れておいた赤い糸を触りながら心でメッセージを送った。




 幾ら花で飾られても柩の中のみずほが痛々しい。
今にも起き上がってきて何か言いたそうだった。
いや……
それは願望だった。


『瑞穂……まだ私は死んでなんかいないよ』

せめてそう言ってほしかった。
でも身動き一つしないみずほ。


俺はそんなことばかり想像していた。
ただ、みずほの死を受け入れたくなかっただけなのかもしれない。


俺はみずほの見える小窓越しに唇を近付けた。
遺体に取りすがり、キスの雨を降らしたかった。
でも釘付けされた柩はもう二度と開くことが出来ないのだ。
虚しさだけが心の隅々まで広がっていった。