カナエは新薬の治験結果と調合方法のデータを自分の端末に男のパソコンからダウンロードし、クライアントとボスに送信した。
 物の価値は人それぞれ。医薬品業界はカナエにとって無価値に等しいデータを欲しがり、利権を貪る。何も知らない大多数の人間は厚生労働省の認可が下りたという確証が得られれば、薬を服用する。薬は気休めに過ぎない、カナエの持論だ。
 全身の鏡があり、髪色をチョコレートブラウンにしたのはいいけど、髪が少し伸びたかな、と毛先を探った。毛先に程よくあてたパーマをカナエは気に入っている。いつもはコテを使っていたのだが、めんどくさくなった。仕事を終えた後は、どうしても肌荒れが激しい。睡眠とコラーゲンをしっかり摂らないと。頬をパンパンと叩き、カナエはホテルを後にした。