「ミッション終了」
 とあるホテルの一室。
 暗号処理し傍受できない端末を片手にカナエはピアノ線をバッグにしまった。ピアノ線は便利だ。これだけ細くも強靭な武器があっただろうか。鋼鉄と炭層の合金であるピアノ線。蛍光灯の光にピアノ線をかざす。見る角度によって色合いが変わる。母親の言葉が思い出された。
「この細い線はね、魔法よ」
 その魔法の線を殺傷のために使用している。人生というのはどこかで道を踏み外し、軌道修正の可能な段階を誤ると、後戻りはできない。