車内での会話はなかった。
「ねえ、音楽やラジオとかないの?」
 私は無音を切り裂くようにいった。
 老紳士はなにも応えなかった。
 彼の役目は、笑いと運転、とでも言うように。
 私はウィンドウ越しに景色を眺めた。草木があり、遠くに森があった。コンビニはなく商業施設もなかった。この世から全てがなくなり、私だけ取り残されたような気がした。
 はあ。
 私はため息をつき、ウィンドウ越しに見ていた景色から視線を外し、前方に視線を移そうとしたとき、自分自身の異変に気付いた。
 なんだろう、これはホクロ?
 私の右頬に小さいホクロがあった。人差し指でコリコリと掻いたがマジックで書いたものではなく正真正銘のホクロだった。