それ以上の言葉は不要と言わんばかりに老紳士は再び、ハハハ、と笑いながら運転席に戻った。その笑いは全て私に向けられているようで不快でもあり奇妙でもあった。
 私は助手席には乗らず、後部座席に乗った。シートは革張りで埃一つ、ましてや私以外の指紋以外はないぐらい清潔に保たれていた。車内の温度調整は的確で、私が車内に乗り込んだ際老紳士はエビアンのペットボトルをくれた。私はキャップを開け、ぐいぐいと飲み、喉の渇きを癒した。砂漠での遭難者の気持ちがわかった気がし、肌にまで潤いが戻った気がした。尿意は感じなかった。しかし、眠気は感じた。老紳士は華麗なUターンを見せ、自らが走行してきた道を再び、走り出した。