「この状況は難しいな」
「難しくはないわ。どんな曲より簡単。でも、少し疲れるけど」
「間違っていたら申し訳ないんだけど、井上ユミさんだよね?」
 アオイは訊いた。
 が、なんの返答もなかった。
 あるのはスースーというリズミカルな寝息と甘い香水の匂いだった。ショートの髪はサラサラで仄かに煙草の臭いがしたが、彼女の目元にアオイの意識が集中したことで薄れた。
 涙?