ここで気まずい雰囲気になるのが一般的だろうが、なぜか二人はアオイに対して好意的であり、「一応、友達になっているつもり」と中村と鈴木は口を揃えていった。
「泣けるね」
 アオイは目元を押さえた。
「ここで本当に泣いたら、いいところに連れてってやろうと思ったのに」
 中村は口角を効果的に上げた。
「いいところ?いいところというのは捉え方次第だろ。他者と自分の感じ方は違う」
「その通りでもあり、違う場合もある」と鈴木はいった。「例えばコンサートや楽団やバンドの演奏者は少なからず感じ方は一緒かもしれないわ。呼吸が合わなければ観衆を魅了できない。それでいて聴衆者は違う。人それぞれの感じ方がある。それは演奏者も一緒。だからアオイ君の答えに断定はできないし、肯定もできない」
「つまりは、コンサートに僕を連れて行くということか」
 アオイは話の流れで推察した。
「ご明察だよ、アオイ」
 中村は嬉しそうだった。口元から涎が垂れそうなほどに。その証拠にシャツの胸ポケットに溶けたチョコが付着していた。講義中に食べたのだろう。汚れが目立っていたが、一つの模様として違和感なく溶け込んでいた。意匠登録すれば、権利収入が得られるかもしれない。
「へえ、誰の?」
 アオイは身を乗り出した。