「わたしは、一体、誰なの?」
 女の疑問の声が漏れたとき、カナエの端末が振動した。席をいったん外し、カナエは廊下で受話ボタンを押した。 
 もしもし、儀礼的な第一声を放つ。
「仕事だ」
「わかったわ」
「国家レベルの重要な仕事だ。ミスは許されない」
「どうせ殺しでしょ」
「殺し+データを盗む」
「データならいつも盗んでるわ」
 ハハハと男は笑った。「それもそうだな」
「対象の情報は端末に送信して」
「お前にとってはゆかりがあるかもな」
「というと?」
 カナエは興味本位で訊いた。
「『記憶改変』この四文字熟語でピンとはこないか」
 ああ、それはカナエにとって不思議な仕事だった。