女の持ち物の中には、化粧ポーチと多額の現金と一枚の写真が入っていた。現金は百万円の束が三つあった。写真には端正な顔立ちをした男が写っていた。若い。まだ二十代前半のようだがどこか影のある。得てして影のある男というのは女性を惹きつけてやまない。カナエのタイプでもあった。
 セックスをしたのはいつだろう。いつしか日常をやり過ごすことに没頭して、男の感覚を忘れていた。
「写真に写っている若い男だけど、覚えていないの?」
 カナエは写真をなぞりながら言った。
「覚えてないわ。でも、写真を見ると頭が痛いの」
 それは非常に重要な意味を持つ、とカナエは思った。やはり写真の男が女にとって重要なキーになることは間違いなさそうだ。
 カナエは写真を裏返した。
『A』
 と書かれていた。