男は手を取りエレベーターの前に向かった。館=エレベーターという図式が私には想像がつかなかった。螺旋階段のイメージが強く、長方形大の入れ物は不釣り合いであり不可解でもあった。
「ここは何階まであるの?」
「難しい質問ですね」
「なぜです?」
「ここは『イシキノヤカタ』。意識は意志であり思考であり夢でもある。階層は無数に存在します。存在を存在し得る要因は当人にあります」
「となると私次第で階層が入れ替わったり形を変えたりする。この見てる者、捉えている者、感じている者、全てが、私」
「いい線ですね。しかし正確なところは誰にもわからないです。正しいと決めつければ正しい。正しくないと思えば正しくない。不思議なんて者は何もありません。不思議は知らないと同義です」
 チン。
 エレベーターの音が鳴った。
 扉が開いた。
 男にエスコートされる形で私は中に入った。