「となると、この場所は私であり私ではない」
「捉えようによってはそうなります。でも、全てが正しいとは限りません」
「というと?」
「人というのは都合のよく解釈します。自己愛の典型ですね。『私はこんなに』『僕はこんなにも』私、僕、俺でもなんでもいいです」とごくりと男は唾を飲み込んだ。
 そして続けた。
「視野を狭める要因であり記憶を狭める要因でもあります」
「私もその一人ということですか?」
「場合によっては」と男は私の手を取った。「人は不快な記憶を忘れることによって防衛する生き物です。違いますか」
 私は何も応えられなかった。明確な回答を提示することができなかった。