「先を見ることができないから」
「ご名答。そうなんです。『イシキノヤカタ』には様々な物事が集約されています。一つ一つ覗き、真実を見るもよし、逃げるもし、攻めるもよし、必ず事実に遭遇します」
「事実に遭遇したら、私はどうなるの?」
「わかりません」
 老紳士の声に冷たい響きが伴った。
「無責任ね」
「責任には対価が伴います」
「そうね。今の世の中、無償ほど怖いものはないわ」
「ご名答。無償の裏には利権が広がっています」
 老紳士は抑揚のない声でいった。四十代に見えた老紳士は五十代にも見えた。