彼はかっと目を見開いた母親と目が合った。口はぽっかりと開き、ソファーに背もたれに顔をのせてうつ伏せの状態に合っている。
「お母さん・・・・・・」
 アオイは微かな声でいった気がする。正確には声にならない声で。母親からの応答はなかった。彼は後ずさりスリッパを落とした。ピタンという音にも母親の瞼は下りなかった。
 彼は足に力が入らず壁伝いに手を這わせ、メトロノームの音が聞こえる父親の部屋に向かった。目の前の視界がぼやけ、足は雨の水分を含み床にピチャピチャと音を立てた。メトロノームはテンポ100を崩さず、世界観が構築されていた。父親の部屋に行きさえすれば何もかも夢で全てが解決するのではないかと思った。一歩、一歩と踏みしめる足は冷たく、家全体を物語っているようだった。