それは一瞬だった。
 アオイの左頬に井上ユミは左手を添えて唇を重ね合わせた。唇が離れ二人は見つめ合う。井上ユミの顔が目の前にあり彼女の顔は小さかった。二人の間に、桜の花びらが落ちたが、感慨に耽る間もなく、沈黙する間もなく、アオイはこう言っていた。
「これこそ久しぶりだ」
「愛情は栄養。アオイに足りないものかもしれないね」
 井上ユミは効果的に首を傾け、にこりとした。今度は井上ユミがアオイの手をとり、つなぎ合わせ、「さあ、行こう」と促した。
 アオイは頭の中に空白が生じた。
 あれはキスだよな、と。
 再確認。 
 検証。
 仮設段階と準備。
 検証。
 反芻。
 頭に流れてくる言葉に一貫性がなかった。
 現状を受け入れろ、と自分を鼓舞する。