「ねえ。アオイ」
 井上ユミが背後から声を掛けた。
 アオイは振り向いた。
 涙?
 くしゃついた顔をした井上ユミの目元から一筋の涙が流れていた。
「泣いてるの?」
「もうすぐ春は終わる。終わる前にデートしましょ」
 井上ユミはアオイの問いには答えなかった。答える気もなかったのかもしれない。彼のグレーがかった心は井上ユミのくしゃついた笑みから色づいた笑みをみた瞬間、少し救われた気がした。
 春が終わる。