「いやあ。小沢アオイ君。私の講義がそんなにつまらないのかね?大丈夫。何も言うな。君ら学生にとって聞くという行為は退屈で仕方ないだろ」 
 佐藤教授は目を吊り上げながら言った。名のある論文を多数発表している者にありがちなこめかみ部分の白髪、顔は五十を過ぎても精気がみなぎりカロリーの高い食事を摂取しているだろう、肉感的体系。スーツは一般的な黒だが、講義の合間に、『オーダーメードの重要性』という単語を九十分の講義で三回出す時点で己のスーツがオーダーメードスーツということを遠まわしにいう、面倒くさい老獪教授ということを、アオイは見抜いていた。もちろん、アオイだけでなく、生徒は皆熟知していることだろう。