キミに恋の残業を命ずる

「実は正直言うとね、疲れが溜まっていてあまり重たいものは食べる気が起きなかったんだ。だからこのくらいシンプルな方が胃におさまりやすくてうれしい」


そう言ってもらえて、ほっとした。

課長の疲れた顔を見たらそんな気がして…本当はチゲとかにもできたけど、あっさりのお醤油出汁にして正解だった。


課長は一口お野菜を頬張って、スープを飲んでほっと息をつく。
ほんとうにおいしそうに。
飲むごとに癒されるように。


「どうして」

「?」

「どうしてキミは、いつも俺が求めているものをくれるのかな」

「……」

「初めて会った時に食べたおにぎりも、オムライスも…素朴なんだけれどもみんなやさしい味で…。すべてが求めても手に入らなかった味だった」

「家庭の味ですか…」

「ん。今まで俺が食ってきたものったら、だいたい冷凍食品とか出来合いのやつでさ。味は美味いんだけどどこか空っぽな感じがして、満たされた気がしなかった」


そっか…課長は施設育ち。
運営側の限界でどうしても食材はそう言った大量生産されたものが多くなってしまうよね…。