「菫ちゃん!希ちゃん!おはよ〜!」
『おはよー!』
いつものように自由に会話ができた。
私の行き道は合っていたんだ...。
「2人とも今週の試合見にこれちゃったりする〜?」
大会の誘いだった。
「今週はたまたま部活がオフだから行けるよー!菫も行くでしょ?」
「あ、うん。もちろん。」
「よかった〜!頑張るね〜!や?頑張らせるねか〜!」

「おはよっ空!」
廊下を歩いていた空の元に元気良さそうに拓海がやって来た。
「おはよう。お前はいつも元気そうだな。」
「あったり前よ〜!いつものことさ!なんて早く6組行くぞ!」
「はぁ?なんのために?」
教室に入り空は自分の席に着いた。
「決まってるだろ!菫ちゃん希ちゃんを誘うのさ!」
「あー、でも凛が誘うだろ?」
「分かってねーな!いいから行くぞ!」
拓海は空の手を引っ張り無理やりつれて行った。
「菫ちゃん〜、希ちゃん〜!今度応援来てよ!」
「今その話していたところ!残念ながら拓海が誘わなくても来るよ〜!」
凛は拓海に勝ち誇った顔だった。
「ほれ、言ったじゃん。」
「空くんは〜、分かってねーな〜!ただ誘うだけじゃ、凛と同じだよ〜!」
「は?」
「菫ちゃん、希ちゃん!絶対に勝ちを届けます。」
何を言い出すかと思ったら、自信たっぷりの勝利宣言だった。みんなでそれを笑ってしまった。
「おかし〜?」
「ううん!いいと思う!拓海くんらしくて!」
「さすが希ちゃん〜!わかってらっしゃる〜!」
「では、またっ!」
拓海がそう言うと空をつれて帰ろうとした。
「拓海、ちょっと待ってて。」
空は拓海の手をはらって菫と希の元に近づいた。
「本当に絶対勝つから。優勝するから。」
そう告げると2人は帰って行った。
「本当に拓海よりも空の方がかっこいいよね〜!」
凛のつぶやきに2人は目を丸くさせた。
やっぱり...。

そして試合当日。
サッカー部は順当に勝利を重ね、いよいよ今日は決勝戦。
決勝戦ということもあり、スタンドは観客でいっぱいだった。
「菫!今日勝つといいね!」
「絶対勝てるよ。空くんたちも言ってたし。」
2人がスタンドへ入るための階段を昇ろうとしていた時、横のグランドでウォーミングアップをしていた選手たちがロッカールームに走って来た。空は2人の姿に気がつきこっちに走って来た。
「2人もありがとね!」
「空くん、絶対勝ってね。」
「もちろん!絶対勝つよ!じゃあ、あっ!」
空は菫の持っていたピーチティーを見つけた。
「俺もピーチティー大好きなんだよね!」
「え?まだ飲んでないしあげよっか?」
「えー?まじ?ありがとう!」
空くんの1つ趣味を知ることができた。

『空ー。ミーティング始まるぞ〜』
「ごめんごめん。」
ピーチティーを持ったまま走って行った。
「空、遅いぞってお前ピーチ...。」
空は大声でピーチティーと言おうとしていた拓海の口を手で覆った。先輩たちにばれたらとんでもないからである。
「もらったの。」
「え?誰から...?」
小さめな声で話す空に空気を読むことができた拓海だった。
「菫さんに。」
「えっ!」
拓海は思わず叫びそうになった。
「まぁなんでもいいけど試合前はやばいぞ?」
「ちょっとぐらいいいだろ?」
「おい!俺にもちょっとよこせよ!」
「ミーティング終わったらな。」
「いぇーい!」
2人は影で試合前に飲もうとたくらんでいた。
「ちょっとお2人さん?」
空は焦ってユニフォームの中に隠した。2人は恐る恐る後ろを振り返った。
「凛!驚かすなよ。」
「早く出しなさい!」
「え?何を?」
「しらばくれたって私は知ってるよ〜?」
凛が完全に魔女と化した。空はもうだめと思い凛に渡した。
「全く、これを試合前に飲もうとするなど非常識すぎわ〜!」
「だよな!空、ばかかお前...。って、いてっ!!」
空を裏切って凛の肩を持った拓海を凛は持っていたピーチティーで叩いた。
「全く!もっと選手だという自覚を持ちなさい!」
『はい...。』
今日の試合は最初から説教だった。

”ピー”
いざ運命のキックオフをされた。決勝戦というプレッシャーもありいつもの通りのプレーができなかった。そんな中フリーキックから先制点を奪われた。
そして前半終了。選手たちはロッカールームに入って行った。ロッカールームではお互いの意見をぶつけ合った。そして監督から前半のプレーの出来の悪さに厳しい喝を入れられた。そしてエンジンを組み全員が気持ちを入れ直した。
『よっしゃー!行くぞ!!』
そして選手たちはグランドへ向かった。
「空、やるしかねーぞ!」
「あぁ、やるぞ!」
空と拓海も気持ちを入れて向かった。空はふと思い出してロッカールームに持ってきた荷物をあさった。
そして後半スタート。チームは、やはり気持ちを入れ替えたことのあり前半よりも動き回った。1人を除いて...。
「ねぇ、菫。さっきから空くん走れてなくない?」
「確かに顔もやけにきつそうだし。怪我したのかな...?」
空の動きが前半よりもかなり悪くなっていた。
「おい、あいつ変だろ。怪我か?交代だな。」
監督は凛に伝えると、凛は交代選手を呼びに行こうとした。
空がこの時間に動けないはずがない。しかも怪我もしそうにないし...。まさかっ!
凛はそう思い荷物をあさった。
あのちょーばかやろー。
そこにあったのは、からっぽになったピーチティーだった。
凛は交代選手を呼ばずに監督の元へ行った。
「空はまだ交代しないほうがいいです。まだ行けます。」
監督は苦い顔を見せたが、凛の鬼のような形相もあったため少し様子を見ることにした。空が動けない分、拓海が空の分まで動き回った。
そしてラスト10分。ここでようやく空も動けるようになってきた。そして空からのスルーパスにキャプテンが走り込み起死回生の同点弾を決めた。スタンドも盛り上がり、完全にペースをつかめた。
そしてアディショナルタイム。ついにこの時が来た。左からのクロスボールに完全にフリーになっていたのは拓海だった。スタンド、ベンチ、すべての人が立ち上がった。
”ビリッ”
拓海は走り込む最中に足をつってしまった。それでも諦めずに足をめいいっぱい伸ばした。
ボールは...届かなかった。
その場で倒れこんだ拓海にプレーが一時止められた。選手はみな拓海の元に近寄った。拓海は残念ながら交代。
そしてみんなが配置に戻る中、空は拓海の元に残った。
「だせーよな俺。いつもこうだぜ...。」
拓海は涙をこらえ切れなかった。
俺のせいで...。俺のせいで拓海が...。
「拓海、ゆっくり休んでな!」
空はそう言うと目に怒りを漂わせた。
そして試合は再開。空はとにかく動き回った。そして再び同じように左からのクロスボールが来た。またフリーになっていたのは...空だ。
拓海のためにも...。
そしてボールを蹴った。会場にいるすべての人がボールの行く手を集中させた。
ボールは...矢のようにネットに突き刺した。
会場全体が歓声に包まれた。そして会場にいるすべての人が空に視線を突き刺した。
試合は終了した。勝った。
歓声をあげる観客の中で菫と希も手を取り合って喜びを分かち合った。
選手たちが応援席にあいさつをしに来た。そして観客と選手は再び喜びを分かち合った。
空はあえて観劇の輪には入らなかった。空が向かったのは怪我で右肩を凛に回して横の方で立って見ていた拓海の元だった。空は凛とは逆の左肩の下に入った。
「拓海本当にごめんよ。」
「いいってことよ〜!チームのために走れたし!」
「拓海...。」
空はこんな時に言い出すことができなかった。
「まぁ、空は飲みきったけどね〜!」
空はばれているはずがないと思っていたので焦った。
「え...?何を...?」
「言っていいのかなピーチティーのこと〜?」
「やめてくれ...。って言っちゃってるじゃん!」
空の隠していたことがばれてしまった。
「え?全く話が読めん!どういうこと?」
「だーかーらー空はハーフタイムに飲んだの!ね〜空〜?」
凛は空をどんどんおいこんだ。
「なーにー?そらお前まじか?」
「本当だね、うん、ごめん!つい、うっかり!」
急に空は拓海から逃げ出した。
「お前〜!って、痛っ!」
怪我人は追かけることが出来ない。
「怪我治ったら覚えとけよ!」
空は笑うしかなかった。拓海も内心は笑っていた。
「でもそのおかげで最後は勝てたんだし〜!」
凛が急に空の肩を持ち出した。
「だよな、凛!」
「で、その勝利のピーチティーくれた人には、お礼しなくていいの?」
「あ!」
空はあわててスタンドへと走った。
「空もすっかり元気そうだな!」
「うん!いつかこの日が来ると思ってた!」
いつか空を変えてくれる人が来ると...。
凛は菫を見つめた。
よろしくね!菫!

空は階段を駆け上がった。空は歓声に湧き上がる観客の中で夢中に菫を探した。その時選手に笑顔で拍手を送る菫を見つけた。
空は菫をの元に走った。
「菫さん!」
菫は振り返った。
「あ、空くん。」
ユニフォーム姿のままいた空に驚いた。
「えっと、ピーチティーありがとう!」
「うん。ナイスシュートだったよ。」
「ピーチティーのおかげかな?や、菫さんのおかげかな!」
「え...。」
こないだ終わらしたはずの気持ちが再び表れた。
「そ、そんなことはないよ。」
菫は無理やり否定しようとした。
「そんなことない!菫さんに出会ってなかったらこの結果は出てなかった!」
空はどんどん菫を困らせた。
「や、でも...。」
菫はどうしても平常心が保てなかった。
「だからさ、今度お礼としてはなんだけどさ...。」
空は言いかけたところで止まった。
「や、なんでもない。ごめん。」
空の目が泳いだ。空の気持ちをなんとなく菫は悟った。
「空くん。凛ちゃんたちが呼んでるよ。」
「え?あ分かった。じゃあ、またね。」
空は菫の目を見ることはなかった。空はスタンドから出た。
菫は空の背中を見続けた。

「菫、凛読んでた?」
「ううん。」
希は菫が空に気を遣ったことが分かった。
スタンドの片隅で神田は見ていた。

空は人目のつかない場所で壁に両手を押し当て、顔を伏せた。
何やってんだ俺は...。
空は自分を責め続けた。歓声がおさまり余韻が残るようになってきた時、空はグランドに戻った。
「お!空、言ってこれた?」
「うん...。」
「どうかした?」
「え、別に。それより凛さっき呼んだ?」
「ん?いつ?何も呼んでないけど?」
「え?だって...。」
空はその瞬間菫が気を遣ったのだと気がついた。
何やってんだよ俺...。
人にまで気を遣わせてしまった空は悔やんだ。
このとき空は彼女のことは出てこなかった...。