「…っ! ご、ごめん…!」


そう言い、彼は慌てて部屋を出て行った。

甘い血の残り香と、呆然と立ち竦む私を置いて。


私の脳が今までに無いくらい高速で動き出す。

彼はさっきのお風呂事件から様子がおかしい。(といっても半日くらいしか経っていないのだが)

彼の第一印象はスキンシップが多い、だった。

そんな彼が手に触れただけであんな嫌そうな顔をするだろうか。

何か街に出たときにしでかしてしまったか…?

彼の態度を「気のせい」と括るのは難しいものがあった。

そもそも彼とは昨日今日会った仲の筈なのに、ここまで彼の事がわかり、ここまで彼に執着するのか。

言葉で説明するほど、自分の気持ちは整理がついていなかった。


そして彼の赤い液体に覚えた、人としてどうかと思う感覚。

自分や他人の血を見て「美味しそう」だなんて感情は覚えたことはない。いっさい。

彼が私の特別だとでもいうのだろうか


ああやこうや考えても変わらない事実が一つ。


彼と確実に気まずくなってしまった。