「あ、あれ?こう?こうかな…?」

…とても心配だ。


先程から彼と夕飯の支度をしているのだが、彼の手元が危うすぎて、そわそわしている自分がいる。

カレーの人参は縦に切り、角切りにしてグツグツ煮こむのだが、人参はまだ鍋に入っていない。

根菜なので一番先に入れたいのだが…

ちなみに人参以外は私が全て下ごしらえを終了させた。

何故彼に人参の役目を任せてしまったのだろうか

いや、これも練習の内だ。

私がいなくても自分で料理くらい作れるようになってほしいから。


でも、流石に角切りくらいはできるだろうと思っていた私が甘かった…


「いっ…」

「!」

気づいた時には彼の手は血だらけになっていた。

相当ざっくりやったようだ。

あれほど包丁の進む先に手は置かず、猫の手でいろ、と言っておいたのだが…

「大丈夫?貸して。今てあ…」


「今手当してあげる」と言いたかった私は、彼の左手から滴る赤い血液を見て自分を疑った。


美味しそう


そう、思った。



動揺を隠しきれず固まっていると、彼がいきなり私の手を勢い良く振りほどく。

「…?!」

「あっ ごめ、えと、違くて、」

彼に私の手が触れたことはそんなに嫌だったのか…

彼からの初めての拒絶。

自分の精神的異常よりも今起きたことに衝撃が走る。