「────見えない」







    ***





それは、月曜という一番忙(せわ)しい朝だった。

「ない……」

私は部屋中のドレッサーや、クロゼットの中を必死に漁っていた。

予備があると思って処分した使い捨てコンタクトレンズだったのに、どこを探しても見当たらない。


「どうしよう……」

裸眼だと殆ど視界がぼやけて見えなくて、呆然として部屋に立ち尽くしてしまった。

このままだと、毛先の跳ねたセミロングの髪をブローすることさえ困難だ。



 どうしたらいい……?


コンタクトがない今、この状況をどうにかするには、机の引き出しの中にしまっているメガネしかない。


「メガネ……か」

中学生の時以来、使っていない細い黒縁の地味なメガネ。


 このメガネに、手を伸ばないといけないなんて───



「あれ?」

メガネを掛けてはみたけれど、ぼんやりとしか見えないのは変わらない。


「コンタクトじゃなくて、メガネだから……かな?」

中学生の時から度数は変わったわけじゃなかったはずなのに。


「それより、早く行かないと遅刻するっ」


とりあえず時間に追われていた私は、そのまま学校へ向かうことにした。