「覚えて……?」
「ああ。俺が1年の時……俺には好きな人がいた。そんなに目立つわけでも美人なわけでもなくて、でも俺はあの人に惹かれた」

真剣な話になってきたことは、馬鹿な頭でも十分わかる。
わかっているのに、聞いている耳と、理解する脳が、上手く追いつかない。聞いたらすぐに抜けて行ってしまいそうだ。だけど、頭の中に一語一語しっかりと残る。

「3年生の、先輩だった。俺……図書館で初めて見て、一目ぼれしたんだけど、その人とは、ホントに図書館でしか会えなかった。今はわかるよ、勉強してたんだな。
だけど、図書館でなら、放課後いつでもこの目で見れた。俺は、ドキドキしてたけど、ある時やっと、話しかけることが出来た」

顔が真っ赤なのは、この夕日のせいだけではない。
わたしと同じで、この人もドキドキしているのだ。
だけど、その矢印は決して交わることはない。
「それで……?」
はやり、痛む胸をギュッと押さえて、わたしは促す。