河野正義、32歳。

朝一番に近所の花屋の店先で
ピンクのバラのブーケを買って
通勤リュックにしのばせた。 

萎れてなければいいけれど……

お目当てはそう。

目の前の席で、今監査員にパソコン画面で説明してる、同期入社の水野亜季。

配属されて3ヶ月目。
俺より年下の敏腕オニ課長に
言えないでいた俺のミスを
黙ってそっと被ってくれた
そのさりげなさにグッときた。

春先に一度
皆の前で怒鳴られたのが悔しくて
次は見てろと思っていた
そんな矢先だったから。

呆気に取られて
ちらっと目配せした俺に
彼女は目さえ合わせなかった。

普段全く目立たない
真面目で口下手な彼女がだ。