そう私が言ったとたん、少しだけ大次さん……春樹君は、目を見開いたけど、またいつもの意地悪そうな笑みを浮かべた。


「良くできました。」



そう言うと、合図もなく彼は、私の唇に自分の唇を重ねてきた。


でも、今回はいつものキスとは違う。


前みたいな、重ねるだけの優しいキスとは異なり



まるで、喉が乾いた獣が水を得ようとするかのように


私の口に吸い付いて離れなかった。


待ち焦がれていたキスなのに


私はやっぱり、貴方から逃げたくなるのはどうしてだろう。



「っふぁ……んん、ふ、ぅはぁ。んん」


少し大人なキスは、私の心を満たすのには十分すぎるぐらい甘かった。



自然と唇が離れると、春樹君はまた、私を見つめる。


「っは、なつき、これから俺のこと、春樹って呼べよ。」



そう言って、私の目を離さないまっすぐな黒い目。


「うん。春樹…………でも最初は、君づけでも、あり?」



だから私も、貴方の目を離さず見るよ。




「…………あり。」





そして自然とまた、お互いの唇が重なる。




私もすっかり大人ななってしまった……。




ああ……でもこんな日も悪くはないな……なんて思ってしまう。


だからもうちょっと、このままで。





静かに、部屋中に二人のリップ音が響いた。




そんな、とある休日のこと。








番外編/名前 【完】