「もともと母親の実家が所有しているアパートだったんだけど、父親が病気で死んでからの収入源として、譲ってもらったんだ」
「はあ……」
「それで、最初は母親と一緒に住んでたんだけど、なんか新しい恋人を見つけたとかいって出ていったんだよ。今もたまに様子見に来るんだけどな」
「そうだったんですね……」
前に冗談で「母親はもう亡くなった」なんて言っていたけれど、親御さんが他界しているというのは本当の話だったんだ。
「それにしても、そんな勘違いをしていたとはな」
「だって、浅野課長の言い方が怪しかったんですもん」
「ははは……とにかく、今、俺のそばには永原しかいないから」
彼はそう言って、包丁をつかんでいる私の手をそっと握り、ふわっと触れるだけのキスをした。
