トン、トン、トン……と、さっきの浅野課長に比べたら10倍くらいの遅さでキュウリを切っていく。
「そういえば、前に天津飯作ったときは文字通り、手取り足取り教えてくれましたよね」
私は、浅野課長が後ろから抱きしめるような体勢で私の手をつかみ、人参の細切りを教えてくれたときのことを思い出した。
「いや、足は取ってないだろ。……でもたしかに、そんなこともあったな」
「あれ、まさか確信犯じゃないですよね? 至近距離で密着して、私の反応を楽しもうとかいう……」
「ああ、そうだよ」
「そうですよね~変なこと言ってすみません……って、えぇ!?」
私は思わず包丁を持っていた手を止め、さらりと言ってのけた浅野課長のほうを振り向いた。
