ミュージック・オブ・フローズンハウス

いろんなお客さんがいますからね、と言って祐輔が笑った。俺は飲み干した空き缶をゴミ箱に向かって放り投げたが的を外れた空き缶はカラカラと音をたてながら薄暗い事務所の中を転がった。その音はとても寂しげで何故かとても不穏な予感をもたらした。
「なんだか寒気がするな」「僕だって寒いですよ」
「違うよ、そういうのじゃなくてさ。俺、もしかしたら風邪ひいたかもしれないな」
風邪じゃないと知っていた。その寒気がどこから来ているのか?この無機質で冷淡で、寂しい雰囲気の漂う事務所からでも、その静寂を打ち破る空き缶の音からでもない、それらは寒気を感じさせる一つの要因に過ぎず、不穏の実体は別の所にあると俺にははっきりと分かった。それがどこなのかは分からなかったが、かなり近くだという事だけは分かった。あるいは始めからその不穏な何かに引き寄せられる運命だったのかもしれない。俺の体内で、無数の蛆虫が犇めいているように胸の奥がムカムカしていた。
「先輩、大丈夫ですか、何だか物凄く震えてますよ」自分の意志とは関係なく、顎が震えてカタカタと歯が音を出した。不思議な事にその音は、自分が自分にケタケタケタと嘲笑っているように聞こえた。