「今日のオーディションは大変ですよ!」


会議室に入れば進行役の女性の先輩に言われる。
でもその言葉とは裏腹に表情は穏やかだった。

不思議に思った私は首を傾げながら高梨部長の方に顔を向ける。
それと同時に高梨部長も私の方を見ていた。
互いの視線が交じり合う中、先輩がクスリと笑みを零す。


「お2人共!
見つめ合っている場合じゃありませんよ!
只でさえ時間がないんですから~!」


からかう様に言葉を放つと先輩は高梨部長と私に資料を突き出した。
それを受け取りながら目を配らせれば『えっ』と驚きの声を上げてしまう。


「さ……300人!?」

「そう!ビックリでしょう?」


私の声に嬉しそうに反応する先輩。
驚きのあまり資料を凝視してしまう。

今回のオーディションは、1役につき50人くらいを募集していた。
だけど実際に集まったのは、どの役もそれを大幅に超えるものだった。
この中でも特にメインキャラクターである“リュウ”に至っては300人といった驚きの人数であった。


「ほらな、言った通りだっただろう?」


明るい声が聞こえ隣を見れば、嬉しそうに微笑む高梨部長が目に映った。
言葉には出していないものの『よく頑張ったな』と言ってくれているような気がした。
それが嬉しくて『はいっ!』と頷けばポンポンと軽く頭を撫でられる。


「いちゃついていないで準備してくださいよー!」


先輩の言葉に私の頬は熱く染まっていく。
恥ずかしい、そう思いながら高梨部長を見上げれば少し照れた様に見つめ返される。