「……桜木……」


私の作り笑顔を見透かしたように高梨部長は哀しそうに顔を歪めた。
そんな顔をさせたい訳ではない。
なのに……私は高梨部長に掛ける言葉が見つからなかった。


「高梨部長!桜木さん!
オーディションが始まるので会議室③に集まって下さい!」

「もうそんな時間か……分かった今行く」

「分かりました!」


先輩社員の言葉に高梨部長と私は一緒に会議室へと足を運ぶ。
今から【恋した悪魔2~サヨナラの口付け~】の声優のオーディションがある。
このゲームはフルボイスが売りの為、いかにキャラと声がマッチするかという事が重要になってくる。
って言っても、今回のオーディションは新キャラの6人を募集しただけだからそんなに時間は掛からないと思うけど……。


「何人の人がオーディションに来てくれたのかな……」


純粋な疑問がポツリと口から出る。
独り言のつもりだったが、隣からクスリと笑い声が聞こえてきた。


「きっと沢山来ているんじゃないか?」


横を向けば優しく微笑む高梨部長が私を見つめていた。


「そう……だと嬉しいですけど……」


自分が考えたゲームのキャラクターのオーディションという事もあり緊張でいっぱいになる。
前回のオーディションの時も立ち会ったけど、やっぱり慣れる事はなかった。


「桜木……もっと自信を持て。
お前が誠心誠意籠めて作ったゲームだろう?」

「高梨部長……ありがとうございます……」


弱気だった私に優しく喝を入れると高梨部長は嬉しそうに顔を緩めた。