大人の恋は波乱だらけ！？

「私は……」


自分が何を言いたいかなんて分からなかった。
開きかけた口が虚しく震えていく。
そんな私を見た新條さんはフッと口元を緩めた。


「僕は……幼い時から小説家を目指してきました」

「新條さん……？」

「でも、未だその夢は叶えられていません。
いい年して夢を見ている馬鹿だって思われるかもしれないけど……。
僕は自分の夢を捨てて、自分を取り繕って生きていきたいとは思いません」

「あっ……」


新條さんの言葉に私は固まってしまう。
別に彼は私の事を言っている訳ではない、それは分かっているが……。
その生き方は正しく私の生き方そのものだった。

努力する事を辞め、周りの目や不安から逃れるために今の仕事を選んだ私。
今となっては仕事は楽しいし誇りを持ってやっているが……。
それは“逃げ”に変わりはなかった。


「貴方が今の生活に満足しているなら僕は何も言いません。
そんな資格もないですし……でも……」


途中で区切って新條さんは私を見つめた。
そしてクイッと頬を指で拭うと私の目の前へと差し出していた。


「今の貴方は心から幸せだといえますか？」

「そ……それは……」


口籠る私とは対称に新條さんは手についた私の涙を見ながら真剣なトーンで言い放った。


「僕にはそうは見えませんけどね」


その声は私の心を突き刺すようだった。


「そんな事……」


言い返そうと口を開いたが、私の口から声が出る事はなかった。
それは彼の言葉を肯定していると認めているようなものだ。

悔しくなった私はマスターや新條さんの制止を聞かずにお酒をこれでもかというくらいに飲んでしまった。
体や頭がフワフワしている、それは自分でも分かっていたが気にする事なく飲み続けていた。