「貴方は……」


向こうも私に気が付いたのか爽やかな笑顔を浮かべてくれる。

そう言えば私たち少しだけ面識があったんだった。
スバルさんが電車で落とした茶封筒を拾って渡しただけだけど……。
あんな少しの会話でも覚えてくれているなんて……。
純粋に嬉しくなった私はスバルさんに笑顔を向けながら軽く会釈をした。
顔を逸らそうとしたら『あの』と声を掛けられる。


「その節はありがとうございました」

「いえ、お礼を言われる事では」

「……良かったら一緒に飲みませんか?」

「え……」


スバルさんは私を見ながら悲しそうに眉を下げた。


「いきなりすみません……貴方と少しお話がしてみたくて……」


その顔を見ていたら断るのが忍びなくなってしまう。
その時頭に浮かんだのが高梨部長の顔だった。


『警戒心を持て』
繰返し言われた言葉が頭の中でループしている。



「あの……迷惑でしたよね……。
……すみませんでした」


シュンと頭を下げるスバルさんは、耳が垂れた子犬みたいだった。
それを見た瞬間、私の口は勝手に動いていた。


「い……いえ……私でよかったら一緒に飲みましょう」

「本当ですか!?よかった……ありがとうございます」


笑顔を浮かべるスバルさんは私より明らかに年上なのに凄く可愛らしく見えた。

スバルさんなら大丈夫だよね。
こんな素敵な笑顔を浮かべる人に悪い人はいないもの。
自分に言い聞かせる様にして笑顔を浮かべた。