「いえ、私はもう少しここで飲んでいます」

「ばか、お前を1人で帰せる訳ないだろう」

「私は大丈夫ですから、高梨部長は早く会社に戻ってください」


笑顔を浮かべれば、高梨部長は深くタメ息を吐いた。
そして、ポンと私の頭を軽く叩く。


「……ったく、お前は気を遣いすぎだ」


私の考えを見抜いた様に呆れた顔をする高梨部長はマスターへと話し掛けていた。


「すいません、コイツが帰る時にタクシーをお願いします」

「分かりました」


高梨部長とマスターの会話を聞いていた私は驚きのあまり彼の腕を軽く掴んでしまう。


「高梨部長!私は大丈夫ですから……」

「うるさい、俺のいう事を聞かないのだからこれくらいさせろ」


もう1度私の頭を叩くと素敵な笑顔を浮かべてくれる。
ドクンと高鳴る心臓を誤魔化す様に私も笑顔を浮かべた。
掴んでいた手を離せば、高梨部長はサラッとお会計を済ませてしまった。
しかも、合計金額より多く。


「あの!ここは私が払うって約束したじゃないですか!」

「ばーか、女性に払わせる訳にはいかないだろう?」

「でも……」


これじゃあ、ここに来た意味がないよ。
そう思って高梨部長を見つめる。


「……ったく、俺を立ててくれよ。なっ?」


あまりにも格好良い笑顔で言われたからか、私はそれ以上断る事は出来なかった。


「……すみません……ご馳走様です」

「おう!」


私が頭を下げれば、いい子いい子をされる。
少し恥ずかしさを感じたけど、凄く嬉しくなる。


「じゃあ俺行くな。
桜木……あまり飲み過ぎるなよ?警戒心も持つように。
それと!くれぐれも気を付けろよ!」


高梨部長が出て行った扉を見ながらフッと頬を緩めた。