「オープニングの曲が使えなくなった……?」

「はい……うちのライバル会社に引き抜かれました……」


謝る神崎先輩の顔には悔しさが滲みこんでいた。

大人の恋愛ゲームの曲を歌ってくれるはずだったこの業界では有名な歌手の人が突然になってキャンセルをしてきたらしい。
先輩の話によれば、もっと条件のいいライバル会社のゲームの曲を担当する事になったとの事。

ゲーム完成間近で起こったアクシデントに顔を引き攣らせた。
曲も収録済みだったから驚きも隠せない。


「桜木ちゃん……ごめん……」


震える私に頭を下げる神崎先輩。


「や……やめてください!神崎先輩が謝る事じゃ……。
私……今からもう1度お願いして……」

「無駄だ、1度止めたら引き返せない事だって先方も分かってる。
それに……お願いして了承するなら断ってないさ」


立ち去ろうとした私の腕を掴み高梨部長は首を横に振った。
私だって分からない訳ではない。

だけど……。


「悔しいじゃないですか……」

「……こういう事は珍しくはないさ。今から新しい人を探そう」

「……はい……」


頷いたけど……。
どうしても納得が出来なかった。