彼の優しさに救われながら飲み続けていれば。

居酒屋の喧騒の中に明美が『あっ』と声を上げた。

私の斜め前に座っていた彼女は、ニヤリと私を見つめて立ち上がった。


「こっちです!!」


立ち上がりながら手を振る明美。

何をしているんだ。
そう思いながら後ろを振り返ろうとすれば、ポンと私の頭に何かがのった。


「遅くなってすまない」


優しいその声が上から降ってくる。


「た、高梨部長……」


見なくたって、後ろに誰がいるかなんて分かってしまった。
正解だと言わんばかりに頭を撫で回される。
大きな手を両手で抑えながら見上げれば、そこには満面な笑みの高梨部長が立っていた。


「よう!さっきぶり」

「ど、どうしてココに……」


驚く私とは対称にニヤリと笑みを浮かべる高梨部長。


「今井さんに誘われたんだ」

「明美に……」


そっと視線を向ければVサインをする明美が目に入った。
悪戯が成功した子供みたいな顔をしながら。

こんな展開になるとは思ってもいなかった為、無性に胸が高鳴った。
でも、それは嫌な意味でだ。
昴さんとキスをした、その罪悪感が胸に募っていくんだ。