大人の恋は波乱だらけ!?

「それと並行して、もう1つ君に頼みがある」

「……何でしょうか?」


『えっ』という驚きの声を押し殺して、冷静なフリをする。
高梨部長の前で失態をする訳にはいかない。
私は彼の部下であり、私が失礼な態度を取れば高梨部長の顔に泥を塗る事になるからだ。
気を引き締めながら真っ直ぐと社長を見据える。


「大人の女性を対象とした恋愛ゲームを作って欲しいんだ」

「お……大人ですか……」

「あぁテーマは【大人の恋愛】だ。
30代の女性をターゲット層として意識してくれ」

「今までの作風とは少し変わるかもしれないが頑張ってくれたまえ」


社長や副社長たちは談笑しているが、そんな簡単に言わないでいただきたい。
それに『少し』ってなによ少しって!!
言いたい事は山ほどあるが口にすることは許されない。

かと言って『頑張ります』と言い切れる自信もない。
何て返事をしていいか分からず黙り込んでしまう。

数秒の沈黙が部屋へと広がっていった。
社長たちの視線が私に突き刺さっているがそれでも何も言う事が出来ない。
掌にぎゅっと力を入れて握りしめる。


「社長、彼女は年齢的にはまだ若いです。
なので多少困難だと思われます」


沈黙を切り裂く様に隣から凛とした声が発せられた。
導かれる様に隣を見れば真剣な顔をした高梨部長が目に映る。


「高梨君、君の意見も分かる。
だが、ウチのゲーム会社を大幅に支持しているのは30代から上の層の女性だ。
桜木君にも少しずつその層にあったゲームを作って欲しいと思っている。
彼女のゲームを世に広めたいと思っているのは私だけかね?」


社長は高梨部長を諭すように言うと勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
所詮、社員が口を出せる事ではないと社長自身が思っている証拠だ。