大人の恋は波乱だらけ!?

「桜木、ちゃんと謝ったのか?」

「謝りましたけど……その……」


どもる私を不思議に思ったのか、高梨部長は覗き込む様にして男の人、つまり昴さんの方に顔を向ける。


「どうもすみませんでし……」


数分前の私と同じ様に謝罪の言葉を呑み込む高梨部長。
この様子だと、男の人が昴さんだと把握した様だ。
チラリと昴さんを見ると、唇で弧を描きながら首を傾げていた。
『なんですか?』と言いた気に黙り込んでいる。
まるで、私たちの事なんか知らない、初めて会ったという様な態度をとっていた。


「彼女が迷惑を掛けてしまったみたいで……。
本当にすみませんでした」


初めは戸惑っていたが優しい高梨部長は、昴さんに付き合って初めて会ったフリをしていた。
そんな彼の優しさを、昴さんが分かっているか分かっていないかは定かではないが、柔らかい笑みを浮かべていた。
まあ、私も高梨部長も、その笑顔が作り物だという事は理解していたが……。
私と高梨部長は顔を見合わせて苦笑いを交わした。


「いえ、彼女さんに怪我がなくてよかったです。
それに、僕も周りを気にしていなかったのが悪かったので謝らないで下さい」

「ちょっとスバル!優しすぎ!100%あの子が悪いじゃーん!」


やっと話しにキリが付くと思った矢先に、不満そうな声が昴さんの横から聞こえてきた。
私も高梨部長も小さくタメ息を吐くともう1度、女性に謝る。
それでも納得がいかないのか、彼女は次から次へと文句を口にしていた。

一体この人は何がしたいのだろう。
ぶつかった私は確かに悪いけど、そこまで責められるような事?
ましてや、ぶつかったのは女性ではなくて昴さんだ。
彼が怒るならまだしも、なぜ関係のない彼女に怒られなければいけないのか。
怒りが爆発しそうになった時、その場を静める様に冷たい声が落された。


「カオルさん、もう止めてください」


その声は他の誰でもない昴さんのモノだった。
私も高梨部長も驚いてしまう。
だって今の彼は口調こそ丁寧だが、雰囲気は本性の彼へと近かったから。