「じゃあ金曜日……」

「残念だがそれは無理だな」


田中先輩の言葉を遮り話に割って入ってきたのは、他の誰でもない。
高梨部長だった。
彼の顔は分かりやすいくらいの営業スマイルになっていた。
そんな、高梨部長の異変に気が付かないのか田中先輩はいつもの調子で話し掛ける。


「高梨部長～邪魔しないで下さいよ～」

「……邪魔なのはお前だろう」


ボソリと耳に届いた声は小さくて、多分私以外には聞こえていないだろう。
それを証明する様に、田中先輩の顔には笑顔が浮かんでいた。


「もう少しで葉月ちゃんを俺のモノに出来る所なんですから～」


田中先輩は高梨部長にだけ聞こえる様に小声で言ったつもりらしいが、私にもしっかりと聞こえてしまった。
高梨部長に慌てて否定をしようとした瞬間、彼の顔から笑顔が消えた。


「桜木はお前のモノになんかならない。
ふざけた事を言っていると……ただじゃおかないぞ」

「ぶ……部長……？」


初めて見る高梨部長の怒った顔に、田中先輩は戸惑いを隠せずにいた。
そんな彼をよそに私を振り返る。


「桜木、企画会議の事で話がある。そのまま行くから準備しろ」

「は……はい」


私を見るその顔は笑っているはずななのに、少し怖く感じた。
彼の目の奥が笑っていない様なそんな感じに見えたのだ。