マンションの駐車場に車を止めた高梨部長は力が抜けた様にシートに体を預けていた。


「だ……大丈夫ですか……？」

「……ああ、予想外過ぎて言葉が出ないだけだ。
あの人とマンションが一緒だったなんて知らなかったからな」


そう言いながら高梨部長は視線だけを私に向ける。
その目は、嬉しそうな哀しそうな、何とも複雑そうだった。


「桜木が同じマンションにいる事は嬉しいが、他の男と住んでいるとなると辛い様な……。
正直、頭が付いていけないよ……」

「……はい。
私もまさか高梨部長がこのマンションに住んでいるとは思ってもいませんでした」

「……何階だ？」

「47階です、高梨部長は？」


私が尋ねれば少し気まずそうに顔を歪める。
そして数秒の間の後観念したかのように口を開いた。


「52階だ」

「52階って……さ……最上階じゃないですか！？」

「まあ……な」


苦笑い気味に言うと高梨部長は車を降りていく。
慌てて私も降りようとすれば『待ってろ』とジェスチャーで返される。
大人しくしていれば、助手席側の扉が開き高梨部長が手を差しだしエスコートしてくれた。
紳士的な彼の行動に戸惑いながらも、お礼を言って車から降りる。


それにしても、こんな高級そうなマンションの最上階ともなればかなりの値段になるだろう。
大手とはいえ、部長職の、ましてやまだ若い高梨部長が買えるとは思わない。
そう思ったが、特に聞きく事はしなかった。
人間誰にでも知られたくない事はある。
高梨部長にとってこの事がそうかもしれないから。


「……どうする？」

「え？」

「俺の部屋に寄っていくか？」

「……えっと……」

「帰りずらいんじゃないのか？」


何も言っていないのに、何かを察した様に気を遣ってくれる高梨部長。
そんな彼の好意は嬉しかったがいつまでも甘える訳にはいかない。


「いえ、大丈夫です」

「……そうか、無理はするなよ」

「……はい」


何処までも優しい高梨部長に感謝をしながら、もう1度お礼を言った。