「ちょっと、ここまだ違う階じゃん!」

「明美をあのままエレベータに乗せてたら皆さんに迷惑が掛かるからね」

「はぁー?」


怒りで頭がいっぱいなのか、本当に分かっていないみたいだった。
昔からそうだ。
彼女は1つの事しか考えることが出来ず、周りの事なんてお構いナシ。
そんな彼女のフォローを私や友輝でしていたんだ。


「怒りは分かるけど、プライベートの事は会社には持ち込まないの」

「だって……」

「そんなんじゃ仕事にならないでしょ?」


少し注意する様に言えば明美は漸く冷静になったのか『ごめん』と眉を下げて謝った。
こういう素直な所も昔から変わっていない。


「分かればいいの」

「葉月、ありがとね」

「どういたしまして」


ニコリと笑って明美の肩を叩く。


「話ならいつでも聞くから!
だからあんまり怒らないでよ、ね?」

「うん!!」

「さっ、仕事仕事!」


エレベータのボタンを押した数秒後に到着の合図の音が鳴った。
タイミングが良かった、そう思い乗り込もうとした時。


「桜木!!」


焦った様な声が私へと向けられた。
そこにいたのは高梨部長だった。
エレベーターには彼しかおらず、やけにその声が響き渡ったように感じた。


「高梨部ちょ……」

「馬鹿野郎!!どれだけ心配したと思っているんだ!!」


名前を呼ぼうとした瞬間、彼の怒鳴り声が向けられる。
それと同時に私は高梨部長の腕の中へと閉じ込められた。