「……俺の前で2度とあの男の話をするな」

「え?何でですか?」

「……そんなの知らねぇよ」


昴さんは不機嫌そうにそれだけ言うと私から目を逸らし窓の外を見る。
訳が分からず彼の想いを少しでも汲み取ろうと昴さんの袖を引っ張る。
彼の目を見れば何か分かるかもしれない。
その一心でとった行動だった。


「昴さ……」


目と目が合った瞬間だった。
全ての時が止まったかの様に一瞬で物音が消え去っていく。
今私を支配するのは、激しく揺れる鼓動と、唇に感じる柔らかい感触だけだった。

昴さんとキスをしている。
それは直ぐに理解が出来た。

唇に伝わる温もりも、私の頬に寄せられた手も、
この状況に陥るのは今回で3度目だ。

でも前までのキスとは何かが違う。
直感でそう感じた。


「……葉月……」

「え……」


唇が離れた時に、そっと呟かれた私の名前。
それは多分無意識だったのだろう。
口に出した本人が目を大きく開いて驚いているのだから。


「……何でもない。
それと、さっきの事は命令だ。
今度俺の前でアイツの話をしたら……ゲームの協力はナシだ」

「そ……そんな!!」


約束が違う、そう反論したが彼は受け入れてはくれなかった。