大人の恋は波乱だらけ!?

「まったく……お前には敵わないよ」


ヤレヤレと言わんばかりの顔をしながら肩をすくめる高梨部長。
でもその顔はどこか優しく私の頬は自然に綻んでいく。

彼は急に真面目な顔をすると前触れもなく私の頬に触れた。
驚きのあまり体を引けばバランスを崩して椅子からずり落ちてしまいそうになった。

危ない、そう思い固く目を瞑る。
しかし私の体に衝撃が走る事はなかった。

ガタンと椅子が倒れた音は確かにしたはずだ。
それなのに何故……。

そう思っていれば自分の体が抱きしめられている事に気が付いた。
誰になんて考えるまでもない。
ココには私と高梨部長しかいないのだから。


「高梨……部長……」

「……」


何度呼んでも彼が答える事はなかった。
ただ真っ直ぐに私を見つめている。


「好きだ」

「……え……?」

「お前が好きなんだ」


いきなりの言葉に目を開く。
聞き間違いだろうか、一瞬それが頭に横切るが直ぐに消えてなくなる。

だって高梨部長の顔は真剣で、とても嘘をついている様には見えなかったから。

煩く高鳴る鼓動が徐々に実感を湧かせてくるが、それと同時に一気に顔が熱くなっていく。
何か話さないと、そう考えれば考えるほど思う様に口が動かない。


「ずっと……伝えたかったんだ。
本当は……もっといい雰囲気の場所やタイミングで言いたかったんだが……。
お前の顔を見ていたら我慢が出来なくなっちまった」


困った様に笑うと高梨部長は私の頬からそっと手を離した。
座り込んでいた私の体をそっと抱き起すと高梨部長は私に背を向けながら倒れていた椅子を直していた。

さっきまで私の体を包み込んでいた優しい温もりが消えた。
たったそれだけの事なのに胸がズキリと痛む。
何も言えずに彼の背中を黙って見つめていれば、哀しそうな声がオフィスへと落とされた。


「お前を困らせるつもりはない。
返事もいらない、だから……今まで通りに接してくれると助かる」


それだけ言うと、高梨部長はオフィスを出て行こうと歩き出した。