大人の恋は波乱だらけ!?

「……」

「……」


お互いに無言のまま見つめ合う。
トクントクンと煩いくらいの音を立てて動く心臓、高梨部長に聞こえないか心配だ。

早くどかなければいけない。
頭では分かっているのに体が動いてはくれなかった。

近くで見れば見るほど、整った顔つきをしている高梨部長。
社内1モテ男の名は伊達ではない。
こんな所を女子社員に見られたら大変な事になるだろう、そう呑気に考えていれば急に頬に温かさが与えられる。


「た……高梨部長……?」


やっとの思いで絞り出した声は弱々しく震えるモノだった。
そんな私を見ながら高梨部長はフッと顔を緩める。

何故そんな優しい顔をしているのか、とか……。
何故早くどいてくれと言わないのか、とか……。

聞きたい事は山ほどあるが、そんな事より気になる事がある。
私はその原因の方に視線を向けた。

当たり前の様に優しく私の頬を包み込む高梨部長の手が視界の端に映る。
まるで愛おしい物を触るかの様な手つきで、勘違いしそうになるくらいだ。
高梨部長が私を大切に想ってくれていると……。

あり得ない事を考えたからか、次第に冷静さを取り戻しつつあった。
まだ心臓は激しく揺れ動いているが我慢できない程ではない。


「すみません、直ぐにどきますか……」


体勢を戻そうと足に力を入れようとしたと同時に、高梨部長の空いていた手が私の背中に回される。
引き寄せられる様に、キツク抱きしめられ身動き1つ取れなくなる。


「桜木」

「は……はい……」


返事をするだけで精一杯だった。
さっきまでは、事故であんなに近い距離にいたから私の意思も高梨部長の意思もそこにはなかった。

だけど今回は高梨部長が私を抱き寄せた。

つまり、高梨部長が私と近くにいてもいいって思ってくれているって事だよね?
自信はないが……。
優しく笑う高梨部長を見ていると、甘い期待を持ってしまう。