大人の恋は波乱だらけ!?

「……結局、よく分かんないまま就業時間が終わってしまった……」


帰りの支度をしながら大きなタメ息を吐いていれば鞄に入っているスマホが小刻みに揺れる。
メール?首を傾げながらスマホを手に取り確認すれば、昴さんからのメールだった。
メールを開けばたった1つの単語が目に映る。

【ハンバーグ】

毎度の事だから意味は分かるがせめて文章にしていただきたい。

昴さんの家に住む様になって、私が料理を担当する様になってからは晩御飯のリクエストが出されていた。
休みの日は直接だが、会社がある日はこうやってメールで指示されるのだ。

つまりこのメールは、『今日はハンバーグが食べたい』という意味を持っている。
昨日はカレーライス、その前はコロッケ。
1週間近く料理を作ってきたから彼の食べ物の好みは大体把握した。
昴さんは子供が好きな食べ物が好きなんだ。
性格に似合わず可愛らしくて思わず笑ってしまいそうになる。


「さて帰ろうかな」


腰を上げて周りを見渡せばもう殆どの人が帰宅した後だった。
相変わらず皆帰るのが早いな……。
そう思っていれば、私の視線がある一か所で止まる。

難しい顔で資料とニラメッコをする人。
その姿を見ていれば視線に気が付いた様に私の方を見た。
ドキリと鼓動が高鳴り急いで視線を逸らすがもう手遅れだった。


「桜木、帰るのか?」

「た……高梨部長!はい、お疲れ様です!」

「おーお疲れ」


ニカッと笑う高梨部長の顔はさっき資料を読んでいた時の顔とは全く違う優しいモノだった。
格好良い、そのひと言に尽きる。
だけど何処か無理をしているようにも見えるのは気のせいだろうか?
我慢が出来なくなった私は高梨部長のデスクに近付く。


「んー?どうした?」


笑顔を浮かべる高梨部長だけど、その顔はやはり疲れが見える気がする。
座っている高梨部長の顔を覗きこむ様に中腰になる。


「高梨部長……顔色があまり良くないですよ。
疲れが溜まっているんじゃあ……あっ!」


意外に近くに行き過ぎたのかバランスを崩し彼の胸に飛び込む形で倒れこんでしまう。

すぐ近くにある高梨部長の顔。
驚きのあまりどく事も忘れて彼の顔を見つめてしまう。
それは高梨部長も同じみたいだ。
一瞬だけ驚いた表情をしたが直ぐに真剣な顔つきに変わり、真っ直ぐに私を見つめていた。