大人の恋は波乱だらけ！？

「本当にお世話になりました」


手続きが終わり大家さんに頭を下げる。
こんな形でお別れをするなんて思ってもいなかったが……。
複雑な想いを胸に大家さんの顔を見れば優しく笑みを返してくれた。


「こちらこそありがとうね！
桜木さんみたいな若い子がいてくれたお蔭でこのアパートも活気づいたよ！」


パンパンと私の背中を叩きながら豪快に笑う大家さんを見ると少し哀しくなる。
もっとこのアパートに住みたかったな……。
大家さんもご近所さんたちもいい人ばかりで……。
私には勿体ないくらいの温かい環境だった。
それを仕事の為とはいえ自分から手放すなんてどうかしているよ。


「桜木さん？」

「え？あっ……大家さんたちとの思い出が蘇ってきちゃって……」

「……桜木さん……元気でやりなよ！」


一瞬だけ悲しそうな顔をするもすぐに私の背中を押してくれる大家さん。
そんな彼女の笑顔にもう1度深く頭を下げる。


「あのこれ……彼女がお世話になりましたので……」


さっきまで黙って私たちの様子を見守っていた昴さんが大家さんへと紙袋を差し出していた。
あれは……さっき車から持ってきた奴？
首を傾げていれば大家さんは『いい彼氏を持ったね』と私の背中をまたもやバシバシと叩いていた。


私と昴さんは大家さんの家を後にすると、今度はご近所さんへと挨拶をする事になった。
しかも驚く事にご近所さんにも紙袋を差し出す昴さん。
いつの間に用意したのだろうか？
呆然と彼を見つめていれば『ちゃんと挨拶しなよ？』と爽やかなキャラのままお説教をされた。